なつとわたし
夏と私

冒頭文

真ツ白い嘆かひのうちに、 海を見たり。鴎(かもめ)を見たり。 高きより、風のただ中に、 思ひ出の破片の翻転するをみたり。 夏としなれば、高山に、 真ツ白い嘆きを見たり。 燃ゆる山路を、登りゆきて 頂上の風に吹かれたり。 風に吹かれつ、わが来し方に 茫然(ばうぜん)としぬ、……涙しぬ。 はてしなき、そが心 母にも、……もとより友にも明さざりき。 しかすがにのぞみのみにて、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 中原中也詩集
  • 角川文庫、角川書店
  • 1968(昭和43)年12月10日改版