いちかわのとうか
市川の桃花

冒頭文

停車場で釣錢と往復切符と一所に市川桃林案内と云ふ紙を貰つて汽車へのツタ、ポカ〳〵暖い日であつたから三等車はこみ合つて暑かつたが二等車では謠本を廣げて首をふつて居る髯を見うけた。市川で下りて人の跡へ付いて三丁程歩くと直ぐ其處が桃林だ、不規則な道はついて居るが人を入れまいとしつらへた垣根は嚴重で着物の裾に二つ三つかぎざきをせねば桃下の人となるわけには行かぬのである。徑が曲りくねつて居るから見た所が窮屈

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「日本」日本新聞社、1903(明治36)年4月7日

底本

  • 左千夫全集 第五卷
  • 岩波書店
  • 1977(昭和52)年4月11日