とら

冒頭文

新派俳優の深井(ふかゐ)八輔(すけ)は、例(いつ)もの通り、正午(おひる)近くになつて眼を覚した。戸外(そと)はもう晴れ切つた秋の日である。彼は寝足りた眼をわざとらしくしばたゝいて、障子の硝子越しに青い空を見やると、思ひ切つて一つ大きな伸びをした。が、ふと其動作が吾乍ら誇張めいてゐるのに気がつくと、平常(ふだん)舞台での大袈裟な表情が、此処まで食ひ込んでゐるやうな気がして、思はず四辺(あたり)を見

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章世界 第十三巻第五号」1918(大正7)年5月1日

底本

  • 編年体大正文学全集 第七巻 大正七年
  • ゆまに書房
  • 2001(平成13)年5月25日