むげんほうえい
夢幻泡影

冒頭文

一 浅黄色の色硝子を張ったような空の色だった。散り雲一つない、ほとんど濃淡さえもない、青一色の透明さで、かえって何か信じられないような美しさである。例えば、ちょっと石を投げる、というような些細な出来事で、一瞬どんな変化が起るかも知れない、と危ぶまれるような美しさだった。そのとき、私には大空を落下する無数の青い破片を想像することもできた。 しかも、そんな美しさは、時も、空間も、失

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1949(昭和24)年4月

底本

  • 澪標・落日の光景
  • 講談社文芸文庫、講談社
  • 1992(平成4年)6月10日