へいたいのやど
兵隊の宿

冒頭文

一 坂の上の、大きな松の樹のある村總代の家で、あるきを呼ぶ太鼓の音が、ドーン、ドーン、ドン〳〵〳〵〳〵〳〵と響いてゐたのは、ツイ先刻(さつき)のことであつたが、あるきの猪之介は、今のツそりと店へ入つて來て、薄暗い臺所の方を覗き込みながら、ヒヨロ高い身體を棒杭のやうに土間の眞ん中に突ツ立てゝゐる。 店には誰れもゐないで、大きな眞鍮の火鉢が、人々の手摺れで磨きあげられたやうに、縁(

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 鱧の皮
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1952(昭和27)年11月5日