はものかわ
鱧の皮

冒頭文

一 郵便配達が巡査のやうな靴音をさして入つて來た。 「福島磯……といふ人が居ますか。」 彼は焦々(いら〳〵)した調子でかう言つて、束になつた葉書や手紙の中から、赤い印紙を二枚貼つた封の厚いのを取り出した。 道頓堀の夜景は丁(ちやう)どこれから、といふ時刻で、筋向うの芝居は幕間(まくあひ)になつたらしく、讚岐(さぬき)屋の店は一時に立て込んで、二階からの通し物や、芝居

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「ホトトギス」1914(大正3)年1月

底本

  • 鱧の皮
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1952(昭和27)年11月5日