こをつれて |
子をつれて |
冒頭文
一 掃除をしたり、お菜(さい)を煮たり、糠味噌を出したりして、子供等に晩飯を濟まさせ、彼はやうやく西日の引いた縁側近くへお膳を据ゑて、淋しい氣持で晩酌の盃を甞めてゐた。すると御免とも云はずに表の格子戸をそうつと開けて、例の立退(たちの)き請求の三百が、玄關の開いてた障子の間から、ぬうつと顏を突出した。 「まあお入りなさい」彼は少し酒の氣の∱Eつてゐた處なので、坐つたなり元氣好く聲を
文字遣い
旧字旧仮名
初出
「早稻田文學」1917(大正6)年8月
底本
- 子をつれて
- 岩波文庫、岩波書店
- 1952(昭和27)年10月5日