こはんしゅき
湖畔手記

冒頭文

たうとうこゝまで逃げて來たと云ふ譯だが——それは實際悲鳴を揚げながら——の氣持だつた。がさて、これから一體どうなるだらう、どうするつもりなんだらうと、旅館の二階の椅子から、陰欝な色の湖面を眺めやつて、毎日幾度となく自問自答の溜息をついた。海を拔くこと五千八十八尺の高處、俗塵を超脱したる幽邃の境、靈泉湧出して云々——と書き出してある日光湯本温泉誌と云ふのを、所在ないまゝに繰りひろげて讀んで見ても、自

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 子をつれて
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1952(昭和27)年10月5日