おおさかのやど
大阪の宿

冒頭文

一の一 夥しい煤煙の爲めに、年中どんよりした感じのする大阪の空も、初夏(はつなつ)の頃は藍の色を濃くして、浮雲も白く光り始めた。 泥臭い水ではあるが、その空の色をありありと映す川は、水嵩(かさ)も増して、躍るやうなさざ波を立てゝ流れて居る。 川岸の御旅館醉月(すゐげつ)の二階の縁側の籐椅子に腰かけて、三田は上り下りの舟を、見迎へ見送つて居た。目新しい景色は、何時迄見て

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「女性」大阪プラトン社、1925(大正14)年10月~1926(大正15)年6月

底本

  • 大阪の宿
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1943(昭和18)年1月15日、1951(昭和26)年9月10日第3刷改版