あいは、ちからはつちより
愛は、力は土より

冒頭文

M市の一隅にある城山の小高い丘を今私は下りて来た。初夏の陽はもう落ち尽して、たゞその余光が嶮しい連山の頂(いたゞき)を、その雪の峯を薄紫に照してゐた。眼の下の街々は僅かに全体の輪郭だけを残して、次第々々に灰色の空気につゝまれて行つた。 妙に心の落着く夕暮であつた。私は徐(しづ)かに足を運んだ。別に行き逢ふ人もないのに、殊更迂路(まはりみち)をして、白い野薔薇のところ〴〵咲いてゐる小径(こ

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆100 命
  • 作品社
  • 1991(平成3)年2月25日