ふみほご
文放古

冒頭文

これは日比谷公園のベンチの下に落ちていた西洋紙に何枚かの文放古(ふみほご)である。わたしはこの文放古を拾った時、わたし自身のポケットから落ちたものとばかり思っていた。が、後(のち)に出して見ると、誰か若い女へよこした、やはり誰か若い女の手紙だったことを発見した。わたしのこう云う文放古に好奇心を感じたのは勿論(もちろん)である。のみならず偶然目についた箇所は余人は知らずわたし自身には見逃しのならぬ一

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1924(大正13)年5月

底本

  • 芥川龍之介全集5
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1987(昭和62)年2月24日