おびひろまで
帯広まで

冒頭文

水気の多い南風が吹いていて、朝からごろごろ雷が鳴っていた。昼から雨になった。伊代は九太から手切れの金だと云って貰った四拾円の金を郵便局に貯金に行った。雨の中を傘もささずに歩きながら、伊代は足が地につかないような、ふわふわした気持ちであった。四枚の拾円札が貯金の通帳になってしまうと、手も足も風に毮ぎとられて行ったような変な淋しさになった。心のうちには、夫婦ぐらしが終りになったら、こんな卒業証書を貰う

文字遣い

新字新仮名

初出

「文藝春秋」1936(昭和11)年11月

底本

  • 北海道文学全集 第12巻
  • 立風書房
  • 1980(昭和55)年12月10日