みれん |
| みれん |
冒頭文
一 黄昏時(たそがれどき)がもう近くなった。マリイはろは台に腰を掛てから彼此(かれこれ)半時(はんとき)ばかりになる。最初の内は本を読んでいたが、しまいにはフェリックスの来るはずの方角に向いて、並木の外れを見ていたのである。それが今立ち上がった。こんなに長く待たせられた事はない、陽気が少し冷たくなった。そのくせ空気にはまだなんとなく五月の末の和かみがある。 アウガルテンの公園には、もうたんと
文字遣い
新字新仮名
初出
「東京日日新聞」1912(明治45)年1月1日~3月10日
底本
- 於母影 冬の王 森鴎外全集12
- ちくま文庫、筑摩書房
- 1996(平成8)年3月21日