だつぼう
脱帽

冒頭文

一 もうそろそろ体に汗のにじみ出るころであつたから、五月を過ぎてゐたとおもふ。途中で買つた医学の古書をば重々と両脇にかかへて、維也納のシユテフアン寺のなかに入つて行つた。それは疲れた体を休め、汗をも収めるつもりであつたのだが、両脇に書物の包をかかへてゐるために、向うの祷卓のところまで行つて、それから帽子を脱がうとおもひ、寺の中のうすぐらい陰気な石の床上を歩いて行つた。いまだ卓までは十数歩

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻31 留学
  • 作品社
  • 1993(平成5)年9月25日