しせんをこえて 01 しせんをこえて
死線を越えて 01 死線を越えて

冒頭文

私は、不思議な運命の子として、神聖な世界へ目醒めることを許された。そして、人間の世界の神聖な姿と、自然の姿に隠れた神聖な実在を刻々に味ふことが、私の生活の凡てになつてしまつた。二十二の時に、貧民窟に引摺られたのも、この神聖な姿が、私をそこへひこずつて行つたのだつた。そして、私の芸術も、この美を越えた聖、生命の中核をなす聖なるものを除いて何ものでもない。 一 東京芝白金の近郊(ちかく)に谷峡(

文字遣い

新字旧仮名

初出

「改造 第二巻第一号〜第二巻第五号」改造社、1920(大正9)年1月〜5月

底本

  • 死線を越えて(三部作全一巻)
  • キリスト新聞社
  • 1975(昭和50)年7月30日