きびょうかんじゃ
奇病患者

冒頭文

薪の紅く燃えてゐる大きな爐の主座(よこざ)に胡坐を掻いて、彼は手酌でちび〳〵盃を甞めてゐた。その傍で細君は、薄暗い吊洋燈と焚火の明りで、何かしら子供等のボロ布片(きれ)のやうな物をひろげて、針の手を動かしてゐた。そして夫の、今夜はほとんど五合近い酒を飮んでも醉を發しない、暗い、不機嫌な、屈托顏をぬすみ視た。そして時々薪を足して、爐の火を掻き熾(おこ)した。 外では雪が、音も立てずに降りし

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 子をつれて 他八篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1952(昭和27)年10月5日