大阪は木のない都だといはれてゐるが、しかし私の幼時の記憶は不思議に木と結びついてゐる。 それは生国魂(いくたま)神社の境内の、巳(み)さんが棲(す)んでゐるといはれて怖(こは)くて近寄れなかつた樟(くす)の老木であつたり、北向八幡の境内の蓮池に落(はま)つた時に濡れた着物を干した銀杏(いちやう)の木であつたり、中寺町のお寺の境内の蝉の色を隠した松の老木であつたり、源聖寺坂(げんしやうじざ