ひと時は目に見しものをかげろふのあ るかなきかを知らぬはかなき(晶子) 宇治の山荘では浮舟(うきふね)の姫君の姿のなくなったことに驚き、いろいろと捜し求めるのに努めたが、何のかいもなかった。小説の中の姫君が人に盗まれた翌朝のようであって、このいたましい騒ぎはくわしく書くことができない。 京からの前日の使いが泊まって帰らなかったため、母夫人は不安がってまた次の使いをよこ