とびらのかなたへ
扉の彼方へ

冒頭文

結婚式の夜、茶の間で良人(おっと)は私が堅くなってやっと焙(い)れてあげた番茶をおいしそうに一口飲んでから、茶碗を膝に置いて云いました。 「これから、あなたとは永らく一つ家の棟(むね)の下に住んで貰わなければならん。遠慮はなるべく早く切り上げるようになさるがいい」 私は良人にこう云われると、持ち前の子供らしさが出てつい小さな欠伸(あくび)を一つ出して仕舞いました。良人はそれを見るとやや

文字遣い

新字新仮名

初出

「新女苑」1938(昭和13)年2月号

底本

  • 岡本かの子全集4
  • ちくま文庫、筑摩書房
  • 1993(平成5)年7月22日