にしだせんせいのことども
西田先生のことども

冒頭文

一 大正六年四月、西田幾多郎博士は、東京に来られて、哲学会の公開講演会で『種々の世界』という題で、話をされた。私は一高の生徒としてその講演を聴きに行った。このとき初めて私は西田先生の謦咳(けいがい)に接したのである。講演はよく理解できなかったが、極めて印象の深いものであった。先生は和服で出てこられた。そしてうつむいて演壇をあちこち歩きながら、ぽつりぽつりと話された。それはひとに話すというより

文字遣い

新字新仮名

初出

「婦人公論」1941(昭和16)年8月

底本

  • 読書と人生
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1974(昭和49)年10月30日