ゼラールちゅうい
ゼラール中尉

冒頭文

リエージュの町の人で、ゼラール中尉を知らぬ者はあるまい。中尉は、リエージュの周囲にいくつも並んでいる堡塁(ほうるい)の一つである、フレロン要塞の砲兵士官である。スタイルの素晴らしく水際立った、立派な士官である。中尉の短く刈り込んだ髭や、いつも微笑を湛(たた)えている蒼い瞳や、一本一本手入れの届いている褐色の頭髪などは、誰にも快い感じを与えずにはいなかったのである。 リエージュにある、すべ

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日