せいしんいんのいちや
誠心院の一夜

冒頭文

赤染衞門は先程から不思議なものを見た、と云ふ氣がしてならなかつた。併し其れは決して惡い氣持のものではない。いやむしろ先程から清げに、圓滿に落着くべき處に落着いた惱みの道を全く通り拔けて、女として、人間として、最も落着いた境地に入り得た者の、其の姿を見たと云ふ氣で、ともすれば吾れ知らず惹きつけられて、尼君の短かい髮のあたり、その未だ老に入らない不思議な美しさを思はせる下ぶくれの、顎のあたりへ自分の目

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 信濃詩情
  • 明日香書房
  • 1946(昭和21)年12月15日