こい

冒頭文

○昔から名高い恋はいくらもあるがわれは就中(なかんずく)八百屋お七の恋に同情を表するのだ。お七の心の中を察すると実にいじらしくていじらしくてたまらん処がある。やさしい可愛らしい彼女の胸の中には天地をもとろかすような情火が常に炎々として燃えて居る。その火の勢(いきおい)が次第に強くなりて抑えきれぬために我が家まで焼くに至った。終には自分の身をも合せてその火中に投じた。世人は彼女を愚とも痴ともいうだろ

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス 第二巻第六号」1899(明治32)年3月10日

底本

  • 飯待つ間
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年3月18日