やまい

冒頭文

○明治廿八年五月大連湾より帰りの船の中で、何だか労(つか)れたようであったから下等室で寝て居たらば、鱶(ふか)が居る、早く来いと我名を呼ぶ者があるので、はね起きて急ぎ甲板へ上った。甲板に上り著くと同時に痰(たん)が出たから船端の水の流れて居る処へ何心なく吐くと痰ではなかった、血であった。それに驚いて、鱶を一目見るや否や梯子(はしご)を下りて来て、自分の行李(こうり)から用意の薬を取り出し、それを袋

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス 第三巻第三号」1899(明治32)年12月10日

底本

  • 飯待つ間
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年3月18日