わがようじのびかん
わが幼時の美感

冒頭文

極めて幼き時の美はただ色にありて形にあらず、まして位置、配合、技術などそのほかの高尚なる複雑なる美は固より解すべくもあらず。その色すらなべての者は感ぜず、アツプ(美麗)と嬉しがらるるは必ず赤き花やかなる色に限りたるが如し。乳呑子(ちのみご)のともし火を見て無邪気なる笑顔をつくりたる、四つ五つの子が隣の伯母さんに見せんとていと嬉しがる木履(ぽっくり)の鼻緒、唐縮緬(とうちりめん)の帯、いづれ赤ならざ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「ホトトギス 第二巻第三号」1898(明治31)年12月10日

底本

  • 飯待つ間
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年3月18日