くまでとちょうちん
熊手と提灯

冒頭文

本郷の金助町に何がしを訪うての帰り例の如く車をゆるゆると歩ませて切通(きりどおし)の坂の上に出た。それは夜の九時頃で、初冬の月が冴(さ)え渡って居るから病人には寒く感ぜられる。坂を下りながら向うを見ると遠くの屋根の上に真赤な塊(かたまり)が忽ち現れたのでちょっと驚いた。箒星(ほうきぼし)が三つ四つ一処に出たかと思うような形で怪しげな色であった。今宵(こよい)は地球と箒星とが衝突すると前からいうて居

文字遣い

新字新仮名

初出

「ホトトギス 第三巻第三号」1899(明治32)年12月10日

底本

  • 飯待つ間
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1985(昭和60)年3月18日