しゅっぱつ
出発

冒頭文

時計屋へ直しに遣(や)つてあつた八角形(がた)の柱時計が復(ま)た部屋の柱の上に掛つて、元のやうに音がし出した。その柱だけにも六年も掛つて居る時計だ。三年前に叔母(をば)さんが産後の出血で急に亡くなつたのも、その時計の下だ。 姉のお節(せつ)は外出した時で、妹のお栄(えい)は箒(はうき)を手にしながら散乱(ちらか)つた部屋の内を掃いて居た。斯(こ)の姉妹(きやうだい)が世話する叔父(をぢ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「新潮」新潮社、1912(大正元)年11月

底本

  • 島崎藤村全集第五巻
  • 筑摩書房
  • 1981(昭和56)年5月20日