いぬ |
| 犬 |
冒頭文
此節私はよく行く小さな洋食屋がある。あそこの鯛(たひ)ちり、こゝの蜆汁(しゞみじる)、といふ風によく猟(あさ)つて歩いた私は大きな飲食店などにも飽き果てゝ、その薄汚い町中の洋食屋に我儘(わがまゝ)の言へる隠れ家を見つけて置いた。青く塗つた窓際には夏からあるレエスの色の褪(さ)めたのが掛つて居る。十二月らしい光線は溝板(どぶいた)の外の方から射し入つて、汚点(しみ)の着いた白い布の掛つた食卓の上を照
文字遣い
新字旧仮名
初出
「中央公論」1913(大正2)年1月
底本
- 筑摩全集類聚 島崎藤村全集第五巻
- 筑摩書房
- 1981(昭和56)年5月20日