かばさん
加波山

冒頭文

桜井家の媒酌としてその村に行ってからことし九年ぶりになる。 村は加波山事件の加波山の東麓にあたり、親鸞(しんらん)聖人の旧蹟として名高い板敷(いたじき)山のいただきは北方の村境であり、郡境ともなっている。 九年まえに行ったときは東京で式を済ませて式服のまま自動車を牛久(うしく)、土浦(つちうら)、石岡(いしおか)、柿岡(かきおか)と、秋晴の野を丘を走らせたから板敷山は越えない。

文字遣い

新字新仮名

初出

「総合文化」1947(昭和22)年1月号

底本

  • 黒船前後・志士と経済他十六篇
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1981(昭和56)年7月16日