ちちのきたく |
| 父の帰宅 |
冒頭文
一 「あれ誰だか、兄さんは知つとるの!」「知らん!」「ちよつとそこ覗いて来ると分るわ。」 小学校から帰つて来た兄と妹である。部屋一つ隔てた奥の座敷を、兄の孝一は気味わるさうにそつと覗きに行つた。 「分つた?」 賢こい眼を輝かせて、みよ子は微笑した。 「うゝん。」 孝一は頭を振つた。 「をかしな兄さん、恍(とぼ)けとるのね、」「………………」 可愛い下り眼の兄の表情がくもつて、返事をしない。
文字遣い
新字旧仮名
初出
「文章世界」1910(明治43)年4月号
底本
- ふるさと文学館 第二〇巻 【富山】
- ぎょうせい
- 1994(平成6)年8月15日