一 「あれ誰だか、兄さんは知つとるの!」 「知らん!」 「ちよつとそこ覗いて来ると分るわ。」 小学校から帰つて来た兄と妹である。部屋一つ隔てた奥の座敷を、兄の孝一は気味わるさうにそつと覗きに行つた。 「分つた?」 賢こい眼を輝かせて、みよ子は微笑した。 「うゝん。」 孝一は頭を振つた。 「をかしな兄さん、恍(とぼ)けとるのね、」 「………………」