かわらのたいめん
河原の対面

冒頭文

一 それは春とは云つても、まだ寒い頃であつた。北の海から冷々としたうら寂しい風が吹いて来て、空にはどことなく冬のやうな底重い雲が低く垂れ込めてゐた。庭の植込みを囲んであつた「雪除」がやつと取外されて、濃い緑色をした蘇鉄や棕櫚竹などが、初めて身軽になつたといふ風に、おづ〳〵と枝を張り幹を伸して、快げに自分々々の身を持返した。さうして、時をり降りそゝぐ小雨が、しと〳〵と湿つぽい温気をもたらし

文字遣い

新字旧仮名

初出

「文章世界」1910(明治43)年4月号

底本

  • ふるさと文学館 第二〇巻 【富山】
  • ぎょうせい
  • 1994(平成6)年8月15日