さくらのみのじゅくするとき
桜の実の熟する時

冒頭文

思わず彼は拾い上げた桜の実を嗅(か)いで見て、お伽話(とぎばなし)の情調を味(あじわ)った。それを若い日の幸福のしるしという風に想像して見た。 これは自分の著作の中で、年若き読者に勧めて見たいと思うものの一つだ。私は浅草新片町(しんかたまち)にあった家の方でこれを起稿し、巴里(パリ)ポオル・ロワイアル並木街の客舎へも持って行って書き、仏国中部リモオジュの客舎でも書き、その後帰国してこの稿を

文字遣い

新字新仮名

初出

「文章世界」1913(大正2)年1~2月、1914(大正3)年5月~1918(大正7)年6月

底本

  • 桜の実の熟する時
  • 新潮文庫、新潮社
  • 1955(昭和30)年5月10日