ゆきのひ
雪の日

冒頭文

曇つて風もないのに、寒さは富士おろしの烈しく吹きあれる日よりも猶更身にしみ、火燵にあたつてゐながらも、下腹がしく〳〵痛むといふやうな日が、一日も二日もつゞくと、きまつてその日の夕方近くから、待設けてゐた小雪が、目にもつかず音もせずに降つてくる。すると路地のどぶ板を踏む下駄の音が小走りになつて、ふつて来たよと叫ぶ女の声が聞え、表通を呼びあるく豆腐屋の太い声が気のせいか俄に遠くかすかになる……。

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆51 雪
  • 作品社
  • 1987(昭和62)年1月25日