まちなかのつき
町中の月

冒頭文

灯火(とうくわ)のつきはじめるころ、銀座尾張町の四辻で電車を降(おり)ると、夕方の澄みわたつた空は、真直な広い道路に遮られるものがないので、時々まんまるな月が見渡す建物の上に、少し黄ばんだ色をして、大きく浮んでゐるのを見ることがある。 時間と季節とによつて、月は低く三越の建物の横手に見えることもある。或はずつと高く歌舞伎座の上、或は猶高く、東京劇場の塔の上にかゝつてゐることもある。

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆58 月
  • 作品社
  • 1987(昭和62)年8月25日