きりのはなとカステラ
桐の花とカステラ

冒頭文

桐の花とカステラの時季となつた。私は何時も桐の花が咲くと冷めたい吹笛(フルート)の哀音を思ひ出す。五月がきて東京の西洋料理店(レストラント)の階上にさはやかな夏帽子の淡青い麦稈のにほひが染みわたるころになると、妙にカステラが粉つぽく見えてくる。さうして若い客人のまへに食卓の上の薄いフラスコの水にちらつく桐の花の淡紫色とその暖味のある新しい黄色さとがよく調和して、晩春と初夏とのやはらかい気息のアレン

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆 別巻30 短歌
  • 作品社
  • 1993(平成5)年8月25日