ちをはく
血を吐く

冒頭文

おせいが、山へ來たのは、十月二十一日だつた。中禪寺からの、夕方の馬車で着いたのだつた。その日も自分は朝から酒を飮んで、午前と午後の二囘の中禪寺からの郵便の配達を待つたが、當てにしてゐる電報爲替が來ないので、氣を腐らしては、醉ひつぶれて蒲團にもぐつてゐたのだつた。 「東京から女の人が見えました」斯う女中に喚び起されて、 「さう……?」と云つて、自分は澁い顏をして蒲團の上に起きあがつた。

文字遣い

旧字旧仮名

初出

底本

  • 子をつれて 他八篇
  • 岩波文庫、岩波書房
  • 1952(昭和27)年10月5日