ゆめ

冒頭文

一 そとは嵐(あらし)である。高い梢(こずゑ)で枝と枝との騒がしくかち合ふ音が聞える。ばら〳〵と時折り窓をかすめて落葉が飛ぶ。だが、それ等は決して、老医師の静かな物思ひのさまたげにはならなかつた。天井の高い、ガランとした広い部屋の中の空気はヒヤ〳〵と可成(かなり)冷たかつたが、彼は大きな安楽椅子(あんらくいす)に身を深く埋めてゐたから、それも平気であつた。それに物思ひと云つても、それは彼のこ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「奇蹟」1912(大正元)年10月

底本

  • 現代日本文學大系 49
  • 筑摩書房
  • 1973(昭和48)年2月5日