ほしあんず
乾あんず

冒頭文

十坪に足りない芝庭である。ひさしく手を入れないので一めんに雑草が交つて野芝となつてしまつた。しかし野も林も路もすべての物が青む季節になれば、野芝の庭もめざましく青い。庭のまん中よりやや西に寄つて一本のいてふの樹が立つてゐる。心をきり落したので、いてふはずんぐりとふとつて無数の枝を四方にさし伸べて、むかしの武蔵野の草はらに一ぽんのいてふが立つて風に吹かれてゐたであらう風景を時をり私の心にうつしてくれ

文字遣い

新字旧仮名

初出

「美しい暮しの手帖 一号」暮しの手帖社、1948(昭和23)年9月

底本

  • 燈火節
  • 月曜社
  • 2004(平成16)年11月30日