おさのおと
筬の音

冒頭文

わが車は、とある村に入りぬ。 軒ごとに吊りほせるかけ菜の、あるかなきかの風にゆらめきて、鶏のこゑ、長閑にきこゆ。 轍におこる塵かろく舞ひ、藪ぎはの緋桃の花、ほろり〳〵散る。高安の春、いま闌なり。 いつしか、村をはなれつ。から〳〵と軋り行く輞(おほわ)の右左、みだれ咲く菜の花遠くつゞきて、蒸すばかり立ちのぼる花の香の中を、黄なる、白き、酔心地に蝶の飛びては憩ひ、いこひてはとぶ。いづこともなく、

文字遣い

新字旧仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆25 音
  • 作品社
  • 1984(昭和59)年11月25日