ただなおきょうぎょうじょうき
忠直卿行状記

冒頭文

一 家康(いえやす)の本陣へ呼び付けられた忠直卿(ただなおきょう)の家老たちは、家康から一たまりもなく叱り飛ばされて散々の首尾であった。 「今日井伊藤堂(いいとうどう)の勢(ぜい)が苦戦したを、越前の家中の者は昼寝でもして、知らざったか、両陣の後を詰めて城に迫らば大坂の落城は目前であったに、大将は若年なり、汝らは日本一の臆病人ゆえ、あたら戦を仕損じてしもうたわ」と苦り切って罵ったまま、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 菊池寛 短篇と戯曲
  • 文芸春秋
  • 1988(昭和63)年3月25日