やまのゆざっき
山の湯雑記

冒頭文

山の蜾𧕳(スガル)の巣より出で入 道の上 立ちどまりつつる ひそかなりけり 前に来たのは、ことしの五月廿日、板谷(イタヤ)を越えて米沢へ出ると、町は桜の花盛りであった。それほど雪解けの遅れた年である。高湯へ行きたいのだと雇いかけて見ても、どの家でも、自動車を出そうとは言わない。もう半月もせなければ、船阪峠から向うが開きますまいなどと、皆平気でとり合おうともしない。そのうち一軒、警察電話で、

文字遣い

新字新仮名

初出

底本

  • 日本の名随筆10 山
  • 作品社
  • 1983(昭和58)年6月25日