はかがよんでいる
墓が呼んでいる

冒頭文

はしがきの一 この話は、今から四年ばかり以前にさかのぼる。その使いが初めて私の家へ来たのは、何でもその年の九月頃ではなかったかと、覚えている。一週間ばかり私が、伊香保(いかほ)の温泉へいっている間に、六十くらいの下男(げなん)風の老爺(ろうや)が来て、麹町(こうじまち)のお邸(やしき)から来たものだが、若旦那(わかだんな)様が折り入ってお眼にかかりたいといっていられる。が、御病中で動けないか

文字遣い

新字新仮名

初出

「小説春秋」1956(昭和31)年4~5月

底本

  • 橘外男ワンダーランド 怪談・心霊篇
  • 中央書院
  • 1996(平成8)年6月10日