ミイラのくちべに
木乃伊の口紅

冒頭文

一 淋しい風が吹いて來て、一本圖拔(づぬ)けて背の高い冠のやうな檜葉(ひば)の突先(とつさき)がひよろ〳〵と風に搖られた。一月初めの夕暮れの空は薄黄色を含んだ濁つた色に曇つて、ペンで描いたやうな裸の梢の間から青磁色をした五重の塔の屋根が現はれてゐた。 みのるは今朝早く何所(どこ)と云ふ當てもなく仕事を探しに出た良人の行先を思ひながら、ふところ手をした儘、二階の窓に立つて空を眺めてゐ

文字遣い

旧字旧仮名

初出

「中央公論」1913(大正2)年4月

底本

  • 田村俊子作品集・1
  • オリジン出版センター
  • 1987(昭和62)年12月10日