譲吉は、上野の山下で電車を捨てた。 二月の終りで、不忍の池の面を撫でてくる風は、まだ冷たかったが、薄暖い早春の日の光を浴びている楓や桜の大樹の梢は、もうほんのりと赤みがかっているように思われた。 ずいぶん図書館へも来なかったなと、譲吉は思った。図書館でゆっくりと半日を暮し得るほどの暇もなかった過去一、二年の生活が、今さらのように振りかえられた。それと同時に、そうした繁劇な生活か