ベエトォフェンのめん |
ベエトォフェンの面 |
冒頭文
一 人生が苦患の谷であることを私もまたしみじみと感じる。しかし私はそれによって生きる勇気を消されはしない。苦患のなかからのみ、真の幸福と歓喜は生まれ出る。 ある人は言うだろう。歓喜を産む苦患は真の苦患でない。苦患の形をした歓喜は真の歓喜でない。お前は苦患をも歓喜をも知らないのだ。お前の体験はそれほどに希薄だ。 しかし私は答える。歓喜を産む可能性のない苦患は「生きている
文字遣い
新字新仮名
初出
「科学と文芸」1916(大正5)年4月
底本
- 偶像再興・面とペルソナ 和辻哲郎感想集
- 講談社文芸文庫、講談社
- 2007(平成19)年4月10日