エレオノラ・ジューゼ |
エレオノラ・デュウゼ |
冒頭文
ロシアの都へ行く旅人は、国境を通る時に旅行券と行李とを厳密に調べられる。作者ヘルマン・バアルも俳優の一行とともに、がらんとした大きな室で自分たちの順番の来るのを待っていた。 霧、煙、ざわざわとした物音、荒々しい叫び声、息の詰まるような黄いろい塵埃。何とも言いようのない沈んだ心持ちが人々を襲って来る。女優の衣裳箱の調べが済むまでにはずいぶん永い時間が掛かった。バアルは美しい快活な少女を捕え
文字遣い
新字新仮名
初出
「スバル」1911(明治44)年1月
底本
- 偶像再興・面とペルソナ 和辻哲郎感想集
- 講談社文芸文庫、講談社
- 2007(平成19)年4月10日