ろはんせんせいのおもいで
露伴先生の思い出

冒頭文

関東大震災の前数年の間、先輩たちにまじって露伴(ろはん)先生から俳諧の指導をうけたことがある。その時の印象では、先生は実によく物の味のわかる人であり、またその味を人に伝えることの上手な人であった。俳句の味ばかりでなく、釣りでも、将棋でも、その他人生のいろいろな面についてそうであった。そういう味は説明したところで他の人にわかるものではない。味わうのはそれぞれの当人なのであるから、当人が味わうはたらき

文字遣い

新字新仮名

初出

「文学」1947(昭和22)年10月号

底本

  • 和辻哲郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年9月18日