どげざ
土下座

冒頭文

ある男が祖父の葬式に行ったときの話です。 田舎のことで葬場は墓地のそばの空地を使うことになっています。大きい松が二、三本、その下に石の棺台、——松の樹陰はようやく坊さんや遺族を覆うくらいで、会葬者は皆炎熱の太陽に照りつけられながら、芝生の上や畑の中に立っていました。永いなじみでもあり、また、癇癪(かんしゃく)持ちではあったが、心から親切な医者として、半世紀以上この田舎で働いていた祖父のた

文字遣い

新字新仮名

初出

「光」1921(大正10)年10月号

底本

  • 和辻哲郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年9月18日