とうそんのこせい
藤村の個性

冒頭文

藤村は非常に個性の強い人で、自分の好みによる独自の世界というふうなものを、おのずから自分の周囲に作り上げていた。衣食住のすみずみまでもその独特な好みが行きわたっていたであろう。酒粕(さけかす)に漬けた茄子(なす)が好きだというので、冬のうちから、到来物(とうらいもの)の酒粕をめばりして、台所の片隅に貯えておき、茄子の出る夏を楽しみに待ち受ける、というような、こまかい神経のくばり方が、種々雑多な食物

文字遣い

新字新仮名

初出

「新潮」1951(昭和26)年3月号

底本

  • 和辻哲郎随筆集
  • 岩波文庫、岩波書店
  • 1995(平成7)年9月18日