きょうのしき |
京の四季 |
冒頭文
京都に足かけ十年住んだのち、また東京へ引っ越して来たのは、六月の末、樹の葉が盛んに茂っている時であったが、その東京の樹の葉の緑が実にきたなく感じられて、やり切れない気持ちがした。本郷の大学前の通りなどは、たとい片側だけであるにもしろ、大学の垣根内に大きい高い楠の樹が立ち並んでいて、なかなか立派な光景だといってよいのであるが、しかしそれさえも、緑の色調が陰欝(いんうつ)で、あまりいい感じがしなかった
文字遣い
新字新仮名
初出
「新潮」1950(昭和25)年10月号
底本
- 和辻哲郎随筆集
- 岩波文庫、岩波書店
- 1995(平成7)年9月18日